2022年3月24日木曜日

トランプ配りと〈かけ算の順序〉論争

 A)トランプ配り

「1972年1月26日の朝日新聞の記事」(メタメタの日 2009/01/23)https://ameblo.jp/metameta7/entry-10196970407.html


〈かけ算の順序〉論争でしばしば言及される、朝日新聞のこの記事によると、1971年に大阪の小学校で、かけ算の式が逆でバツになった答案を子どもが持ち帰った保護者のKさんが、学校や教育委員会、文部省に抗議した。

この記事は数学者などにも取り上げられ、さらに議論を呼んだ。

式がバツになった設問は、かけ算の文章題で、「6人のこどもに、1人4個ずつみかんをあたえたい。みかんはいくつあればよいでしょうか」というものだった。

Kさんが根拠としたのは、トランプ配りである。トランプ配り(カード配り)とは、トランプをポーカーなどの参加者に配るときの配り方。トランプは1人1枚ずつを、参加者全員に順に配りながら、54枚全部がなくなるまで、何巡もする。6人なら9巡である。

①通常の理解では、配った結果に注目する。子どもが6人いて各人の前に、配られた4個のみかんが置かれている。みかん4個の山が6つある。1人分のみんかの数4個の4が1つ分の数で、人数6がいくつ分なので、式を〈1つ分×いくつ分〉の順に書くとき、式は4×6だ。

逆に、②4人に1人6個ずつだったら6×4となる。しかし、③トランプ配りをして、配る過程に注目すると、全員に1人1個ずつ配る1巡(1周)で、6人分6個配れる。これを4回繰り返すと(4巡すると)、最終的には、1人4個ずつ受け取ることになる。

ここでは、1巡で配る個数6(1人1個ずつで6人分の6個)を1まとまりとして見ることかが可能で、これが1つ分の数に、4巡(周、回)の4がいくつ分となる。日本の算数では、かけ算の式は〈1つ分×いくつ分〉の順に書く習慣なので、式は6×4である。

①②③の3つとも、かけ算の式は〈1つ分×いくつ分〉の順に書かれている。③は式自体は②と同じだが、状況は①と一致する。状況は同じなのに、トランプ配りをすると、一つ分の数といくつ分が入れ変わる。

一つ分の数4といくつ分6が、一つ分の数6といくつ分4となる。1つ分の数であった4がいくつ分に、いくつ分であった6が1つ分の数になる。①と③では状況は同じで、配るミカンの総数も同じ24個である。

ここから、のように言える。

4(1つ分)×6(いくつ分)=6(1つ分)×4(いくつ分)

👧👦👧👦👧👦

🍊🍊🍊🍊🍊🍊 1巡目
🍊🍊🍊🍊🍊🍊 2巡目
🍊🍊🍊🍊🍊🍊 3巡目
🍊🍊🍊🍊🍊🍊 4巡目

これが交換法則である。かけ算の交換法則は、算数の教科書では、アレイ図などで示されている。アレイ図でも、グループを縦1列ごとに作るか横一列に作るかで、1つ分の数といくつ分の数が入れ替わることが、示せる。


トランプ配りによる解釈は、可能と言えば可能だし、間違っているわけではない。児童がもしこのような解釈をして、〈1つ分×いくつ分〉の順に書くという「約束ごと」に従えば、式は6×4である。

ここまで見るかぎり、6×4でバツにされる理由はない、と言えそうだ。


B)非現実性

だが実は、トランプ配りによる解釈は、現実性に関して大きな問題がある。児童はそもそも、そのように解釈しないのである。トランプ配りの解釈は、むしろ、自由派が順序派を批判しようとしてひねくりだし、持ち出すものである。

新聞記事の小学校は、Kさんの抗議を受けて、逆に書いた児童に聞き取り調査をしたところ、トランプ配りで考えた児童は1人もおらず、どの児童も、問題文に数が現れる順に式を書いただけだった、ということがわかった、という。文章題は「6人のこどもに、1人4個ずつみかんを…」となっていて、たしかに、問題文中で1人分の数よりも、人数が先に登場する。

児童がトランプ配りによる解釈に基づいて立式することは、まずない。1人に配る個数が4個とわかっているのに、1個ずつ配るというのは、かなり効率が悪い配り方であり、大人でもしないであろう。最初から、各人に4個まとめて配るであろう。

トランプをトランプ配りするのには、特殊な事情がある。ポーカーなどはいいカードを集めるので、前のゲームの影響が残ると不公平になる。不公平が起こらないように、ゲーム前に十分にシャッフルし、また、配るときも、トランプ配りをする。

キャンディーが多数あって、全部の個数は不明、人数だけ決まっているときに、平等にキャンディーを配る方法としては、トランプ配りは1つの方法となる。しかし、かけ算の問題では、1人に配る個数が最初からわかっている。

小学生くらいの子どもは、現前する具体物に基づいて思考する。子どもの各人に4個のみかんの場合は、子どももみかんも具体的なものだが、それに比べると、一巡で6個の「巡」は事物ではなく、動作の単位なので、より抽象的である。だから、小学生は、配られた結果としてできる、各人の前にできたみかんの山を、考える。

トランプ配りによる解釈は、1個、2個……のように数えることができる分離量では、比較的容易だが、連続量だと、ぐっと難しくなる。クラスの38名全員に、1人に20cmのリボンを配るとき、全部で何mのリボンが必要? リボンは運動会の遊戯で、腕に付ける。

リボンを1cmごとに細かく切って、1巡目で1人に1cmのリボンを渡し、38人全員が受け取ったら、2巡目で1人に1cmのリボンを渡し……ということを20回繰り返せば、1人に全部で20cm分のリボンの【破片】が集まる。

1巡ごとに、38人分の38cm必要で、この細かな38cmの配布を、20回繰り返す必要がある。このとき、38が1つ分の大きさ、20がいくつ分となる。しかし、そのように細かく刻まれたのでは、運動会では使用できないであろう。

1個54円の消しゴムを38個購入するとき、1円ずつの分割払をすれば、1回につき38個分の38円を払い、それを54回繰り返せば、完済できるはずだ。しかし、1円ずつの分割払いは、小学校の近くの小さな文具店ではもちろん、大手の文具専門店でも、取り扱いがないであろう。

だから、大人にさえ、トランプ配りの解釈は、思い浮かばない。ましてや子どもは思いつかない。もし児童にトランプ配りの解釈をさせたいなら、そのための十分な誘導が必要である。まず、文章題を次のように、トランプ配りで配ったことがわかるように、改める。

「6人の子どもに、1人1個ずつみかんを配り、全員が1個受け取ったら、同じことを最初の子どもに戻って繰り返す。4回繰り返すとき、みかんは全部で何個必要?」

また、挿絵としては、トランプ配りをした過程がわかるようにコマ絵を描いて、「巡」というまとまりを、線で囲って示すなどする。そうすれば、さすがに児童にも、巡ごとのまとまりがわかる。そのとき、かけ算の式は6×4であり、4×6ではない。


(参考)

自由派が、ふだんからトランプ配りでお菓子などを親から受け取る習慣の子どもが、トランプ配りで考えて逆順式を書いた実例として挙げるのが、読売発言小町のこの例。

2011年12月10日 小2の母「小学2年生、掛け算の文章題で悩んでいます。」

http://komachi.yomiuri.co.jp/t/2011/1210/467390.htm?o=0&p=1

ところが、この例は、実はトランプ配りによるものではないことが、次のブログで、明らかにされた。同時に明らかにされたのは、小2の母に対する自由派定数氏の激しく生々しい裏工作であった。

「小町小2の母の娘は、本当に、トランプ配りで考える2年生の例か?」http://makitae.cocolog-nifty.com/tsurezure/2015/12/2-a5c3.html


(Twitter @flute23432 2022/02/19 06:08PM, 06:19PM などに基づく)