2022年3月23日水曜日

疑似〈かけ算の順序〉問題

 〈かけ算の順序〉の問題は、それと似た別の問題と誤解され、混同されることが、ときどきあって、その代表的なものが、次の3つ。

1)文章題の問題文に現れる順にかけ算の式を書くように指導する教え方

2)加減に対して乗除を優先するなどの、計算の優先順位の問題

3)3つ以上の因数からなるかけ算の式において、どの乗号から実行するかの順序


1)日本の学校算数教育では、小1から小2にかけて、児童は、文章に現れる順に式を立てるように、指導される。ひき算の文章題も、ほとんどが、文章のなかで、引かれる数が先に現れる。

はじめて数学的な演算を習う児童が、容易に式を立てられるように、文章が式の順になっているのである。児童は理解が挿絵にも依存している度合いが高いので、挿絵も、式の左右に対応するように描かれている。これは、あくまで、初学者向けの教育的配慮である。

だが、一般的にいえば、文章題には、立てる式の順に数が出てくるはずもないから、いつまでも「現れる順に式を立てればよい」という、小1向けの配慮を続けるわけにはいかない。

そこで、小2の後半くらいから、文章中に現れる順では式を立てられないケースがぼちぼちと出てくる。その代表が〈かけ算の順序〉である。今度は、文に現れる順ではなく、〈1つ分×いくつ分〉の順に、つまり、意味の順に、書くように指導される。

この指導に従うには、数の意味(どちらが1つ分の数?)や文章が表す数的構造(かけ算なら同数グループ構造)を把握できていないといけない。児童は文章解析力がないので、これは大きな挑戦となる。

〈かけ算の順序〉論争において、保護者などによってアップされ議論の対象となるのは、バツになった採点済み答案である。これを見れば、1)「〈かけ算の順序〉とは文章に現れる順序だ」が誤解であることは明白。

その答案の文章題の多くは、文章中に現れる順序でいくつ分の数が先に現れる、逆順文章題である。現れる順に書いた式はバツとなる。もし、1)〈かけ算の順序〉指導が、文章中に現れる順に式を書くことを求める指導のことであれば、マルになるはず。


2)〈かけ算の順序〉は、異なる種類の演算子が混じる式で、どこから(どの演算子から)計算するのか、という計算順序のことだと、誤認されることもある。

小4で習うように、乗除加減の演算が混在する式では、原則は、左(前)から順に計算していくが、右(後)のほうを最初に計算させたいときは、丸括弧内に入れる。括弧が重なっているときは、より内側の括弧内が優先的に計算される。

ただし、括弧が3重4重になるとわかりずらいので、加減と乗除のあいだに、乗除優先の優先順位を設けてある。このルールで括弧を少なくできる。3+(4×5)→3+4×5。

〈かけ算の順序〉は、乗号とその前後の数について、一つ分の数(被乗数)を乗号の前に書くのか後に書くのか、という問題である。4×3のように、演算子が1つしかない単純な式では、〈かけ算の順序〉問題は生じるが、2)の計算順位の問題は生じない。

また、計算問題では、計算順序の問題は生ずるが、〈かけ算の順序〉問題は生じない。〈かけ算の順序〉は意味の順だか、計算問題では意味は重要でないから。〈かけ算の順序〉は、文章題のように意味が重要なところで、問題となる。

だから、〈かけ算の順序〉の話は、2)同じ式のなかの異なる演算どうしのあいだの順序の話とは別である。


3)5×2×3のように、因数が3つ以上の、かけ算だけの式でも、どこから計算するか、どの乗号から遂行するのか、という問題が、起きうる。2)は、異なる種類の演算子のあいだでの計算順序だが、3)は、同じかけ算どうしの順序である。

ただし、2)と違い、かけ算だけの式はどこから計算しても同じ、つまり、結合法則が成り立つので、結果が異なるおそれはない。

(5×2)×3=5×(2×3)

4×3のような、乗号1つの単純な式では、2)と同様に、〈かけ算の順序〉問題は起きうるが、3)どの乗号から実行するのか、という問題は、存在しない。どの乗号から実行するのかが問題となり得るためには、式に乗号が複数なければならない。〈かけ算の順序〉は結合法則よりは、交換法則に関わる。

計算問題では、2)と同様に、意味は重要ではないので、〈かけ算の順序〉問題は起きない。でも、3)計算順位の問題は、起きうる。ただし、2)と違い、結果に影響を与えないので、問題は深刻ではない。

では、5×2×3のように、因数が3つ以上あるとき、〈かけ算の順序〉問題は生じないかというと、そういうことではない。5個入りキャンディーの袋が2つ入った箱が3つある。まず、各箱のキャンディーの数を求める式は、5(1つ分)×2=10。

各箱に10個入っていて、その箱が3つあるので、キャンディーの総数を求める式は、10×3。この2つの式をまとめれば、(5×2)×3である。5×2では5が1つ分、(5×2)×3では、()内が1つ分である。

こうも考えることが可能。袋の総数を求める式は、各箱に2袋、箱の数が3つなので、2×3=6である。各袋に5つ入っていて、その袋の総数は6なので、5(1つ分)×6=30。この2つの式を1つにすると、5×(2×3)。この式では、5が1つ分の数で、(2×3)がいくつ分である。


(Twitter @flute23432 2022/03/19 00:44PM, 01:00PM などに基づく)