2021年2月14日日曜日

〈かけ算の順序〉は、割り算や割合の学習にどう有益なのか?

〈かけ算の順序〉をめぐる論争で、順序指導の意義を問われた小学校の教師が、かけ算の順序を守らないとわり算で躓く、割られる数と割る数を逆に書いてしまう、といった答え方をすることがある。実際、小学校算数の学習課程において、かけ算の学習とわり算の学習とは、どう関係するのであろうか。〈かけ算の順序〉はわり算や割合の理解に有益なのか?

小学生は2年で、同数グループが複数あるとき、各グループの構成員数(一つ分)とグループの数(いくつ分)から、全部の数を求める演算として、かけ算を習う。「3つの袋のどれにも4個入っているとき、キャンディは全部で何個?」という文章題では、1つ分は各袋に入るキャンディの個数4であり、いくつ分は袋の数3で、求めるべき全部の個数は12である。


この定義では、1つ分といくつ分とでは意味・機能が違う。どちらもものの個数であるが、一方はキャンディの個数、他方は袋の個数で、しかも、キャンディと袋はまったく別のものではなく、袋にはキャンディが入っている。だから、両者をそれぞれ正しく把握できているかが、学習のポイントの1つとなる。そこで、両者の意味の違いがいつも児童に明瞭になるように、〈1つ分×いくつ分〉で順序を固定して、かけ算の式を書く。キャンディの例では、4×3である。

4(1つ分)×3(いくつ分)=12(全部の数)

これが、かけ算の順序だ。

順序はかけ算の性質として主張されているものではなく、教育上のルールとして設定されたもの。ナイフとフォークは機能が別なので、トレーの別の仕切りに入れて収納するのと同じで、整理の仕方を示している。

教科書や板書で、その順に書くだけでない。日本の学校算数では、児童が文章題で立てる式にも、その順に書くことが求められる(立式【後】の計算には、求められない)。

式の書式と順序の固定は、あきらかに初学者向けのものであり、次のような空欄がある式を埋めて式を完成させる、ということと同じ。塗り絵に似ているが、こんなものでも、1つ分といくつ分が把握できていない児童は、正しく式を完成させることができない。

□(1つ分)×□(いくつ分)=□(全部の数)

このような、順序を固定したかけ算の学習が、割り算や割合の学習に役に立つとすれば、2つの点においである。


第1に、これは間接的な効果であるが、文章題の文章に出てくる数の意味に、意識的になることである。

というのも、低学年児童は、〈船長の年齢〉の問題に見られるように、文章の解析力が不十分で、意味もわからないまま、文章中の数字を引いたり掛けたりしようとするからである。〈船長の年齢〉の問題というのは、「船にヒツジが26匹、ヤギが10匹積まれています。船長は何歳でしょう?」と低学年の児童に訊くと、かなりの子が、36歳だと答えてしまう現象である。

わり算では、かけ算と違い、〈わられる数〉と〈わる数〉を取り違えると、答えが違ってきてしまうので、数字の意味を正しく把握することは、かけ算以上に重要である。ただし、整数しか使わない文章題では、より大きな数を除算記号の前に配置すればよいので、問題は小さい。

高学年で学ぶ割合の問題は、掛けることも割ることもあり、使われている数も小数や分数である。大きい方の数を小さい数で割る、掛ければ大きく割れば小さくなる、といったことは、もはやヒントにならない。どれが基準量で、どれが比較量なのかなど、文章題の文章をよく読んで、数の意味や数と数との関係をしっかり把握することが、一層重要となる。

かけ算の順序を守れば、割合の問題が簡単に解けるようになる、というほど事態は単純なはずはないが、少なくとも、それはそのための準備体操となる。


第2に、学校算数では、割り算がかけ算と緊密な関係に置かれている。割り算は、かけ算との関係では、全部の数と1つ分、またはいくつ分、とがわかっているきに、わかっていないもう1つの数を求める演算だから。

全部の数といくつ分がわかっているとき、1つ分を求める割り算は等分除、全部の数と1つ分がわかっているときに、いくつ分を求める割り算は包含除と呼ばれる。12個のリンゴを3人で分けたとき1人分のリンゴ個数を求めるのが等分除。これは、かけ算の式では、乗号の前の空欄(1つ分)に入れる数を求める割り算である。

□(1つ分)×3(いくつ分)=12(全部の数)

これに対して、12個のリンゴを3個ずつ分けるのとき何人に分けられるかが包含除。これは、かけ算の式では、乗号の後の数(いくつ分)を求める割り算である。

3(1つ分)×□(いくつ分)=12(全部の数)

ここでは、かけ算学習における順序と、等分除的状況と包含除的状況による割り算の導入とが、緊密に対応させられている。教科書におけるわり算の説明は、かけ算の説明に合わされ、順序を含んだかけ算の説明を活用している。

かけ算とわり算の導入がこのような形でなされているかぎりでは、〈かけ算の順序〉がわからないと、割り算がわからない、ということが起きるであろう。正確に言えば、割り算そのものではなく、順序指導を前提とした割り算の授業がわからなくなる。


かけ算を学習する段階から、順序を排除することは、可能と言えば可能であろう。アレイ図(グループを作らないアレイ図)を使えばよいのである。

まず、かけ算を、長方形状のアレイ図(rectangular array)で、縦の個数と横の個数から、コマの総数を求める演算として導入する。縦と横の違いが依然としてあるのではないかと言われるかもしれないが、長方形と同じで、アレイ図も90度回転すれば、縦と横は入れ替わるので、縦と横の違いは重要ではない。

そして、割り算は、アレイ図のコマ総数と、縦ないし横の個数がわかっているときに、わかっていないもう1つの辺の個数を求める演算である。このような説明の仕方では、同数グループという数的関係を使わないので、1つ分もいくつぶんも出てこないし、1つ分を求める等分除も、いくつ分を求める包含除も現れない。

両者は、コマの総個数を構成する2つの因数として対等であり、したがって、乗号の前後は対称的なものになる。かけ算はいまや〈1つ分×いくつ分〉ではなく、〈因数×因数〉の掛け算である。


ただ、このようにしか学ばなかった児童は、碁盤目だとか下駄箱だとか、アレイ状に配列されているものであれば、かけ算やわり算が適用できることがわかるが、他の配列のときに、何算で問題が解けるのかがわからない。アレイ図だけによる導入は、狭すぎるのである。

小学生が馴染みの状況で、かけ算やわり算が適用できる場面としては、たとえば、水が260mL入りボトルが7本のとき、水が全部で何Lかを求めるとか(かけ算)、水が1.82Lを容量260mLのボトルに分けて入れるときに必要なボトルの本数を求めるとか(包含除)、が考えられる。これらには、アレイ状の配列はないので、260mLを1mLごとに分割するなどして、複数の同量物の配置をアレイ的配列へと変換できなければ、かけ算やわり算が使えないことになる。

(Twitter flute23432 2021/01/10 11:09PM に基づく。)