2019年9月15日日曜日

ガラパゴスとはとても言えない超算数

ツイッターなどで、「超算数」と呼ばれ、轟々たる非難を浴びている、日本の算数教育のさまざまな指導法や概念は、ガラパゴスだ(注1)、つまり、国際的に見て孤立している、と思われがちだ。だが、実際は、思われているほど、ガラパゴスなわけではない。


1) かけ算の順序

単元テストなどでかけ算の式を順序が逆だという理由でバツにする採点は、たしかに、外国では珍しいが、ないわけではない。


この画像は、「なぜ、5×3=5+5+5はバツになったのか」という記事のなかで掲示された答案である。5×3を足し算で表現する問題で、5+5+5と解答して減点されている(注2)。英語圏では、かけ算の式は乗数×被乗数の順に書かれ、そのように教えられていることが多いが、ここも、そうなのだろう。その前提のもとでは、5×3は5が乗数、3が被乗数なので、3が5つあることを表す。足し算で表すと、5×3 =3+3+3+3+3になるはずである。

だが、もし、5×3は無条件に3×5とも書いていいなら、それは同数累加で表現した場合、5+5+5でも3+3+3+3+3でもいいはずである。ところが、そのように書かれた解答が減点されて、3+3+3+3+3の訂正を受けている。あくまで、5×3の式では、5が乗数、3が被乗数なのである。。

もう1つの例は、YouTubeにある、小2向けにかけ算の導入を行うスライドである(注3)。かけ算を、5 groups of 3という関係は5×3と式に書く、と教えている。



「5人の女の子がどの子も、図書館で本を3冊借ります。この状況を表すかけ算の式を書きなさい。どちらが正しい? 5×3 3×5」

文章題が表す数的関係は、5 groups of 3ということなので、式は、日本の算数教育とは逆の〈乗数×被乗数〉の順に書く表記慣習に従って、5×3となる。3×5は 3 groups of 5のことなので、誤り。

3つ目の次の例も,同様である(注3b)。この画像は,あるブログに載っていたものであるが,ブログ著者自身は,友だちが送って来てくれたという答案のこの採点について,かけ算の可換性を理由に,「これでは,子どもたちは数学を学べない」と激しく批判している。

宿題の設問は,同数累加の各式について,「かけ算の式を書きなさい」というもの。3+3+3+3+3+3=18は,かけ算で簡潔に書くと,6×3=18である。ところが,答案を書いた小3の子は,3×6=18と解答してしまった。答案には教師の字で "This says 3 groups of 6" と書かれている。構成員数6のグループが3つの意味になってしまう,つまり,6+6+6の意味になってしまう,と指摘されているのである。



3本耳の兎が2羽という意味になってしまうので誤りとする、日本の算数の教え方と同じである。

4つ目の例は、ドイツのものである。



手のひら(片手)が4つ描かれていて、「これに対応するたし算の式とかけ算の式を書きなさい」という設問である。たし算の式は、5+5+5+5しか考えにくい。そうだとすると、ドイツでも、かけ算の式は〈乗数×被乗数〉の順に書くので、式は4×5になるはず。ところが、児童は5×4と描いて、赤でfにされた。fは"falsch"(誤り)という意味である。

かけ算の順序が違って減点される、ということは、外国の初等数学教育でも起こるのである。

ただし、これはかけ算の導入段階の初期に限られ、一般に、かけ算を使う文章題で、児童が乗数×被乗数の順序で書かないとバツや減点になる、ということはないであろう。実際、英語圏の数学学習サイトや自習用プリントサイトの、文章題の模範解答では、かけ算の順序は、文章に現れた順になっている。つまり、文章題文章中に現れる順序で、被乗数が先なら、模範解答でも、被乗数が先に書かれている。教科書では、かけ算の式を乗数×被乗数の順に統一して書いていても、日本のように、児童が解答として書く式にまでに、教科書通りの順序を求めない。


これは K5 Learning という学習サイトのプリントである(注4)。問1は、「アンドリューが4人の友人に、1人3つずつサンドイッチを作ったとき、全部でいくつ作ったのか」という問題。式は、4(乗数)×3(被乗数)である。文章に現れた順に書いたのでこうなったのか、乗数を先に書く習慣に従ってこうなったのかは、これだけでは不明である。しかし、問2は、「1カップに2個ずつオレンジを使って、6カップ分のオレンジジュースを作ったとき、オレンジはいくつ使ったのか」という問題で、ここは式は、2×6となっている。式では、被乗数2が先に来ているが、これは、文章上で2が先に現れるから。たぶん、問1でも、そうだった。


2)「かけられる数」「かける数」

「かけられる数(被乗数)」、「かける数(乗数)」という用語・概念は、日本の算数教育の専門家が「捏造」したものではなく、日本が明治期に欧米から輸入したものである。画像は1835年のフランス語算術書からの抜粋である(注5)。


「35. かけ算は、被乗数(multiplicande)と呼ばれる数を、乗数(multiplicateur)と呼ばれるもう1つの数に含まれる単位の数の回数だけとる、または、繰り返す演算である。この演算の結果は、積(produit)と呼ばれる。被乗数と乗数は積の因数(facteurs)である。」

ここでは、かけ算は同数累加の簡略算と定義されているのである。つまり、たとえば、4×7は、4+4+4+4+4+4+4という同じ数の足し算を簡潔に表現したものである。

この定義は伝統的なもので、今日でも、世界中で、使われている。日本は、数教協の影響で、メインには〈1つ分×いくつ分〉でかけ算が教えられているが、これは 英語圏では、同数グループ(equal groups)によるかけ算の説明に相当する。5本の鉛筆のセットが3つあるときの鉛筆の総数を求めるかけ算の式は、5本の鉛筆のセット3つが、"3 groups of 5 pencils"なので、3×5である。

英語では、乗数は"multiplier"、被乗数は"multiplicand"で、順序は乗数×被乗数となっている。画像はウィスコンシン大学の元教授ラングフォード教授の数学資料から(注6)。。



次の図は、"Math is Fun"という英語圏の数学サイトからのもの(注7)。交換法則により、どのような順序でも掛けても構わないので、両者とも"factor"と呼んだほうがいい、とも書かれている。





3) 足し算の合併と増加

日本では、足し算を、「合わせて」(合併)と「後から来て」(増加)という状況タイプで導入する。そして、増加タイプでは、後から追加されるものの数が、足し算記号の後に置くという設定で教えられている。いわゆる足し算の順序である。これも日本の算数教育の専売特許ではなく、外国の初等数学指導法に見られるものである。


画像はニューヨーク州のコモンコアの教科書"Eureka Math"から(注8)。画像の文章題がある課の目的は、「絵を描いたり、等式を書いたり、解決の仕方について述べたりすることで、"add to"タイプ(結果が未知)と"put together"(結果が未知)タイプの文章題を解くこと」となっている。ある文章題が、どちらのタイプなのかを考えることもする、という。

"add to"タイプというのは、いくつかのものがまずあり、それに後からいくつかが追加されて、現在いくつあるか、を問う文章題。画像では、「カエルが6匹ここにいる。そこに1匹のカエルが跳んで来た。今は、カエルは何匹?」(図上)。これに対して、"put together"というのは、あるものがいくつか、別のものがいくつかあり、合わせていくつかを問う文章題である。例、「暗い色の旗が4つある。白い旗は3つある。全部で旗はいくつ?」(図下)

"add to"タイプと"put together"は、"join"タイプと"part-part-whole"タイプと呼ばれることもある(注9)。加入(join)「レイナは人形を4つもっている。さらに2つ買った。今はいくつもっている?」 "Laina had four dolls. She bought two more. How many dolls does she have now?"(増加) 部分-部分-全体(part-part-whole)「バスケのチームには男の子5人と女の子3人がいる。チームの子どもは何人?」 "Five boys and three girls are on the basketball team. How many children are on the basketball team?"

ドイツの教育学でも、合併と増加に対応する概念がある。図は、パデルボルン大学リンケンス教授の「低学年算数教授法」のスライド(注10)の1枚。


リンケンスは足し算の基本表象として、「合わせる zusammen tun」と「付け加える hinzu tun」の2つを挙げる。「合わせる」では、足される2つの数は対等で、その順序を変えても、描写される状況は同じである、と書かれている。これに対して、「付け加える」では、2つの数は異なる意味をもつ、とされる。つまり、最初の数は手持ちの静止数、2つ目の数は行為数である。位置を交換すると、描かれる状況が違う。

したがって、リンケンス教授の考えがドイツでどれほど受け容れられているかは不明だが、足し算にも順序が考えられている、と言える。では、「付け加える」では、交換法則は成り立たないのかというと、そうではなく、表象ではなく理解のレベルでは、成り立つ。だから、基本表象と区別される基本理解の1つとして、交換法則が、スライド15枚目で語られる。

合併と増加は、基本表象(Grundvorstellung)に属す。基本表象において、児童が足し算の概念を形成する。これに対して、基本理解(Grundverständnis)は、数学の構造に関わる。はじめて、基本表象は状況拘束的だが、基本理解はより抽象的で普遍的である。

だから、足し算には順序があるというのは、基本表象のレベルの話であり、足し算・かけ算の可換性を否定しているとか、足し算が非可換だという嘘が教えられているとか言って騒いている人は、リンケンスによれば、ただレベルを混同しているだけなのである。


4) ゼロを含まない倍数

算数では、倍数は、ゼロを含めない形で定義されている。ある自然数(正の整数)の倍数とは、その自然数倍である。だから、ゼロの倍数はなく、ある自然数のゼロ倍のゼロは、その数の倍数ではない。ある整数の最初の倍数は、その整数の1倍、つまり、その数そのものなのである。3の倍数は3から、4の倍数は4から始まる。

この倍数定義は、外国の初等算数教育でも、普通である。画像は、上がアメリカの教師作成教材社の書籍、下はドイツ語の6年生用の練習問題教材で(注11)、どちらも、倍数(multiple, Vielfache)は、ゼロではなく、1倍のその数そのものから始まっている。ゼロを含まない倍数については、別のページに詳しく書いた(注12)。





小学校では、負の数を学ばないので、負の整数の倍数も、整数の〈負の整数〉倍も、考えない。また、小学校で習う整数にはゼロが含まれているが、ゼロ倍のゼロは、最小公倍数との関係で、倍数に含めない。含めると、最小公倍数はすべてゼロになってしまうから。


5) 文章題式欄

黒木氏は「解答欄の「式  答え 」形式は日本の小学校算数の独特のスタイルだと思います」(2017/08/11 6:55)と述べているが、これは誤り。外国の学習プリントなどでも、文章題の解答欄として、答え欄とは別に式欄が用意されているものある。



これは、ドイツのGrundschulkönigという算数サイトのプリントから(注13)。「ジモンは4袋パプリカを買いました。各袋には3つのパプリカが入っています。ジモンは何個パプリカを買って帰りましたか。」計算欄(Rechnung)と答え欄(Antwort)がある。模範解答では、それぞれ、

Rechnung: 4・3=12
Antwort: Simon bringt 4 Paprika nach Hause.

となっている。計算欄には式を書く。ドイツでは、答え欄の答えは数値+単位・助数詞ではなく、それを含んだ文で答えることになっている。

次は、Bout de Gommeという小学校学習サイトの例(注14)。「父は、1259フランでスクーターを、165フランでヘルメットを買いました。彼はいくら払わなければなりませんか?」で、計算欄(Calcul)と答え(Réponse)欄がある。



次の例も、フランス語圏からのもの(注15)。



「カロリーナの誕生日は7月31日で、パレオ家の全員が集まる機会でもあります。今年は、34人もの人たちが、休暇でやってきました。カロリーナはデザートとして、ケーキ屋でおいしいケーキをホールで4つ、当日朝出来上がりで、購入しました。ケーキは1つ、23ユーロです。全部でいくらになるかを計算しなさい。」

式欄と答え欄は設けられていないが、文章題の前には、「各問題について、解答(réponse)として操作(opération)と文(phrase)を書きなさい」と書いてある。それに対応して、模範解答には、式と、答えが書いている。フランス語圏でも、答えは文で書く。

式欄があるために、「これ何算?」「掛けるの割るの?」という、大人からすれば、馬鹿みたいな質問を、日本の児童や生徒たちはするようになってしまったと、黒木氏は言うのだが、本当なのか。外国の文章題にも式欄があるなら、外国の子どもたちも、同じ発問をしているのか。たしかに、外国の質疑応答サイトで、子どもが何算かをどう見分けるのかという質問をしているが、これは、四則演算の文章題を学び始めた子どもたちがかならず出会う普遍的な現象ではないのか。

文章題から式を起こして、採点されずに、子どもたちはいつどのようにして、四則演算の式の立て方を習うのか。


6) 等分除・包含除

わり算には、等分除と包含除がある。たとえば、2個のキャンディを3人の子どものあいだで等しく分けるときの1人分を求めるわり算が等分除、12個のキャンディを1人3個ずつ配るとき何人に配れるかを求めるわり算が包含除である。この等分除と包含除の区別もまた、輸入物である。

次の引用は、1835年のフランス語算術書からのものである(注16)。包含除と等分除に相当する用語はまだ見られないが、わり算に2つの場合があると書かれている。その中身は、包含除と等分除にほかならない。



「57節 整数のわり算は、割られる数が、割る数に商をかけてできた積であるか、商に割る数をかけてできた積なのかに応じて、2つの一般的な場合を示す。最初の場合は、商は、明らかに、割る数が割られる数のなかにいくつあるかを表している。2つ目の場合は、商は割られる数の一部で、割る数によって示されたのと同じ種類である。しかし、この2つ目は1つ目に帰することができる……」

当時の初等数学教育では、日本の算数教育と同じ、被乗数×乗数の順序でかけ算の式を書く習慣だった(というより、日本が当時の欧米から影響を受けて、その順序を採用した)。だから、「割る数に商をかけ」るのは、「割る数(被乗数)に商(乗数)をかけ」ことであり、商は乗数(いくつ分)なので、かけ算との関係で言えば、これは乗数(いくつ分)を求めるわり算、つまり、包含除のことなのである。「商に割る数をかけ」る場合は、「商(被乗数)に割る数(乗数)をかけ」るので、商は被乗数であり、被乗数は1つ分なので、1つ分を求めるわり算だと言える。これは等分除にほからならい。

ところで、この引用で、「割る数に商をかけ」ることと「商に割る数をかけ」ることが、区別されているのは、たいへん興味深い点である。19世紀のフランス語圏でも、かけ算には順序が考えられていたのである。日本の〈かけ算の順序〉教育の源流は、こんなところにあるのかもしれない。

次の画像は、カナダのオンライン教材サイトからの引用である(注17)。ここでは、包含除と等分除が用語として確立している。等分除は分割(partage)のわり算、包含除はグループ分け(groupement)のわり算である。



「割り算には2つの意味がある。分割(partage)の割り算とグループ化(groupement)の割り算である。したがって、設問を使って、この演算を文脈のなかで提示することが重要となる。」

「・分割の割り算は、事物の数量が、その数がわかっているいくつかの同量グループに分けられるときに、起きる。こうして、各グループの事物の数が求められる(たとえば、28羽の鳥は、4つの異なるカゴに入られると、カゴごとに7羽となる)。28÷4=7」
「・グループ化の割り算は、グループの大きさが知られ、グループの数が求められているときに、起きる(たとえば、28羽の鳥が、4羽ずつのグループに分けられるとき、7つのカゴが必要となる)。28÷4=7」

ドイツ語圏でも、やはり、初等数学教育では、等分除と包含除の区別がされているようだ。次の画像は、ロート教授講義スライド『小学校算数教授学』の1枚(注18)。除法のモデルとして、包含除(Aufteilen)と等分除(Verteien)の2つを挙げている。

ドイツでは、集合(Menge)という概念が、小学校のころから教えられている。集合Mを、いくつかの大きさ(要素数)が同じ部分集合に分けるとすると、Mと部分集合の双方の大きさがわかっているときに、部分集合の数を求める割り算が、包含除(Aufteilen)である。これに対して、Mの大きさと部分集合の数がわかっているときに、部分集合の大きさを求める割り算が、等分除(Verteilen)である(注18b)。



ドイツでは、かけ算は、日本の算数とは乗数と被乗数の位置が逆だが、かけ算との関係で言えば、包含除は乗号(×)の前の乗数(いくつ分)を求める割り算(□×4=12)、等分除は乗号の後の被乗数(1つ分の数)を求める割り算(4×□=12)である。包含除と等分除のこの違いを、空欄□の位置の違いで説明する点は、日本の教科書と同じである。この意味では、ドイツの基礎学校(Grundschule 日本の小学校に相当)の数学でも、かけ算の順序は設定されていると言える。。


英語圏でも、同様の説明の仕方を見ることができる。かけ算で、乗号の前の乗数を求めるわり算が包含除(measurement division)、乗号の後の被乗数を求めるのが等分除(partitive division)である。画像は、ウィスコンシン大学のラングフォード教授の数学資料から(注19)。包含除を表す英語は、他には、"quotative division", "measured division"が、包含除としては  "partition division", "fair share division"がある。

最後は、中国語圏での例。台湾の数学掲示板(注20)で、等分除と包含除に関する討論がなされている。中国語はわからないが、この区別が必要なのか、児童は理解できるのか、ということがテーマのようである。



7) さくらんぼ計算

さくらんぼ計算は、1年生がくり上がりがある足し算をはじめて学ぶときの指導法・学習法である。足す数から分岐線を引いて、足す数を、足される数に足すと10になる数と、他の部分の数に分け、この2つの数字をそれぞれサークルで囲む。それがさくらんぼに見えるので、「さくらんぼ計算」と呼ばれる。

足される数+足す数=全部の数


さくらんぼ計算は、アメリカにもあり、"Make a Ten Strategy"などと呼ばれる。こちらは、コモンコア導入時に、日本から輸出されたのではないかと思われる。次の例は、バナナまで描かれている例(注22)。足される数と、足される数に足すと10になる数とを、長い円で囲んで、10を作るということを示すバナナも描かれている。



次は、YouTubeからの画像である(注21)。




8) くもわ図・みはじ図

くもわ図・みはじ図は、割合や速さの3公式を思い出すための図的工夫であり、割合や速さの理解・学習に使える二重数直線図や4項関係図と同列には扱われるものではないと思うが、これもしばしば「超算数」とされている。これもまた、外国に見られる。

最初の画像(注23)は、ドイツ語圏のくもわ図で、基にする量は"Grundwert"(基礎価)、比べられる量は"Prozentwert"(百分価)、割合は"Prozentsatz"(百分率)と呼ばれている。英語圏では、基にする量は"whole", "Total"(全体)、比べられる量は"part"(部分)、割合は"percent"(百分率)と呼ばれている。



図は、英語圏のみはじ図である(注24)。"Dictance - Speed - Time triangle"などと呼ばれる。



見ての通り、形は日本のように円ではなく、三角になっている。三角形なので、英語圏のくもわ図は、"percentage triangle"などと呼ばれている。不明なものを指で押さえて、掛けるのか割るのかが視覚的にわかるという使い方も、日本と同じである。




注1
この文章は、「この国ではせっかく数学が日本語で学べるのに、その足がかりの算数は、謎の解釈論にまみれた、数学記号と似て非なるガラパゴス言語と化していた」という那須太郎氏のツイートにおける「ガラパゴス」という言葉に反応して書いた連ツイに基づく。

かけ算の順序論争で、ガラパゴスと言えば、次のブログがとても、よく知られている。

白川克「6×8は正解でも8×6はバッテン?あるいは算数のガラパゴス性」(blogs itmedia 2011/12/21)
http://blogs.itmedia.co.jp/magic/2011/12/6886-2d5b.html

ただ、「ガラパゴス性」とタイトルに書いてあるものの、内容は、とくに、〈かけ算の順序〉指導が外国にはない日本固有のものであることを示して、日本の算数教育の孤立性、ガラパゴス性を、明らかにしようとしているわけではない。

注2
Brett Berry, "Why Was 5 x 3 = 5 + 5 + 5 Marked Wrong" (medium.com)
https://medium.com/i-math/why-5-x-3-5-5-5-was-marked-wrong-b34607a5b74c

記事の著者ベリー氏は、そうした採点方法にストレスを感じながらも、こうした採点方法に、理解を示している。よく知られているように、英語圏では、かけ算の式では、乗号の前の数値を乗数、後の数値を被乗数とすることが多い。5×3は、3を5つ寄せる(足す)ということなのである。

5×3と3×5は数量的には、つまり計算結果は等しいが、意味が違う。equalだが、equivalentではない。5×3は5 copies of 3を、3×5は3 copies of 5を意味している。

もし意味も同じだということなれば、5×3は、30÷2とも同じということになる。5×3と30÷2は、計算結果が同じ15になるが、5×3はかけ算、30÷2はわり算なので、意味は明白に異なる。

引き算やわり算では、順序を違えると結果に影響してしまう。足し算とかけ算は可換だが、引き算やわり算は可換ではない。しかし、子どもたちは、この点でとてもまだ不安定なので、交換法則を教えるまでは、意味の違いに注意すべきである。

順序が結果に影響する例として、著者はプログラミングと行列の例を挙げる。JavaScriptでは、量的な等しさを表すのに==を、数字と文字のちがいを表すのに===を用いている。行列のかけ算では、交換法則が成り立たない。

注3
Ramy Melhem "Multiplying Using Groups"(2014/04/04)
https://www.youtube.com/watch?v=K50zMUFvafE

注4
K5 Leaning, Mathematics, Worksheets,Grade 3, Multiplication Work Problems, Simple #1
https://www.k5learning.com/worksheets/math/grade_3_multiplication_word_problems_a1.pdf

注5
J.N. Noël, Arithmétique élémentaire raisonnée et appliquée, Luxembourg, J.Lamort, 1835. Google Books

注6
"Laurel Langford's math resources", 4.3: Multiplication models, properties and basic facts
Laurel Langfordは、ウィスコンシン大学River Fall校の教授だった。
https://langfordmath.com/ECEMath/Multiplication/MultModelsText.html

注7
Math is Fun, Dictionary, "Multiplicand"
"But because we can multiply the two numbers in any order, it is better to use the word "factor".
https://www.mathsisfun.com/definitions/multiplicand.html

注8
NY-CommonCore, Eureka Math, glade 1, module 1, topic c, lesson 9, pp. 6f.

注9
Suzanne H. Chapin & Art Johnson, Math Matters: Understanding the Math You Teach, Grades K-6, 2000; ch. 3: Addition and Subtraction, pp. 40ff.

注10
ドイツのH・D・リンケンス(Hans-Dieter Rinkens, 1942-)元パデルボルン大学教授の2009年夏学期講義「低学年算数教授法 Didaktik der Arithmetik 1-3 Klasse」。画像は、その「足し算・引き算の基本表象・基本理解」の回のスライドの12枚目。

注11
Math Challenge (Grades 4-6), Teacher Created Resources, Inc., 2009; p. 75
Antje Barth / Melanie Grunzig / Simone Ruhm / Hardy Seifert, Mathematik üben: Differenzierte Materialien für das ganze Schuljahr, (e book), Klasse 6, 2013; S. 5.

注12
flute23432「倍数はゼロを含む? 」(2019年5月2日)
http://flute23432.blogspot.com/2019/05/blog-post.html

注13
Grundschulkönig, Mathe, Klasse2, Sachaufgabe2
https://www.grundschulkoenig.de/fileadmin/user_upload/mathe/klasse2/sachaufgaben/sachaufgaben_2_loesung.pdf

注14
Bout de Gomme, mot problem, addition 01
http://boutdegomme.fr/

注15
Professeur Phifix, fisches, Problèmes, Problèmes cycle 3, avec une multiplication - 1
https://www.professeurphifix.net/probleme_impression/resoudre_probleme_une_multiplication1.html

注16
J.N. Noël, Arithmétique élémentaire raisonnée et appliquée, Luxembourg, J.Lamort, 1835; p.21.

注17
カナダのオンタリオ州教育省とフランス語系テレビ局TFOが小学校教育のために運営する学習サイト"Ressources pédagogiques en line"より。
"2 sens de la division: partage et groupement" (atelier.on.ca)
http://www.atelier.on.ca/edu/pdf/Mod50_45_deuxsens_division_456.pdf

注18
Jürgen Roth (Universität Koblenz Landau, Institut für Mathematik), Didaktik der Grundschulmathematik, 4. Multiplikation und Division
http://www.dms.uni-landau.de/roth/lehre/skripte/did_grundschulmathematik/did_grundschulmathematik_4_multiplikation_und_division.pdf

注18b
現在の日本の算数教育では、式のなかの数字には、原則、単位・助数詞を付けないが、以前はつけていた。だから、包含除と等分除とでは、単位・助数詞の付き方が違っていたので、式でも区別ができた。



ロート教授講義スライドのほうの画像の一番下の行で、包含除と等分除が、

包含除 12 Ä[pfel] : 4 Ä[pfel] = 3
等分除 12 Ä[pfel] : 4 = 3 Ä[pfel] 商は被除数と同じ種類

のように単位・助数詞の付け方で書き分けられているのは、これとまったく同じ考えによるものものである(Äは、Äpfel リンゴの略)。

この節の冒頭に画像引用した19世紀の算術書には、式は書かれていないものの、「商は割られる数の一部で、割る数によって示されたのと同じ種類」と言われている。「同じ種類」というのは、言い換えれば、同じ助数詞・単位ということで、ここにも同じ考えが示されている。つまり、助数詞・単位に注目して言えば、包含除は、12個のリンゴ(割られる数)のなかに、4個のリンゴ(割る数)がいくつ分(商)含まれているかを、等分除は4人(割る数)で等分したとき、1人分はリンゴ何個か(商)を、求めるわり算である。「名数」「無名数」という古い算数学用語を用いるなら、包含除は名数で名数を割る割り算、等分除は名数を無名数で割る割り算だと言える。

注19
"Laurel Langford's math resources"
Laurel Langfordは、ウィスコンシン大学River Fall校の教授だった。
https://langfordmath.com/ECEMath/CGI/MultDivGroupingText.html

注20
台湾市立大学「数学教師知識庫」というサイトの掲示板
http://www.mtedu.utaipei.edu.tw/mathweb/showtopic.asp?TOPIC_ID=1780&Forum_id=52&page=1&sdt=

注21
Fresh and Fun Teacher, "Make 10 to Add: Number Bond Worksheets" (, Teachers pay Teachers), p.2
https://www.teacherspayteachers.com/Product/Make-10-to-Add-Worksheets-within-20-3129599

注22
"Make 10 Strategy for Addition" (2016/09/06), by Tori Kuhn, YouTube.
https://www.youtube.com/watch?v=q9h4skGoWJ8

注23
Serlo, mathematik Prozentrechnugn mittels Formeln
https://de.serlo.org/mathe/zahlen-gr%C3%B6%C3%9Fen/prozent--zinsrechnung/prozentrechnung-mittels-formeln

注24
H3 Graphic, H3 Maths, "The Time Speed Distance Triangle"
https://h3maths.edublogs.org/2013/06/27/the-time-speed-distance-triangle/



(※ twitter flute23432, 2019/09/11 17:46, 2019/07/30 20:00, 2018/03/17 23:14 などに基づく。)